人間とAIがゲームをプレイするエネルギー政策評価シミュレーション

 現在のエネルギーシステムは、供給事業者と需要家の双方が自身の利害や見通しに基づいて技術を選択する、自由化された市場を基盤としています。こうした状況下では、太陽光・風力・原子力といった非化石エネルギーが無条件で選ばれるわけではないため、政策による誘導が必要となります。そこで、事業者や需要家が市場をどのように認識し行動するのか、個々の事業者や需要家の行動がシステム全体の技術選択をどのように変えるのかを知ることが重要になってきています。

 私たちの研究グループでは、エネルギーシステムをゲームとして表現し、AIと人間がゲームをプレイするという、新しいエネルギー政策の評価法を開発しています。化石燃料と非化石エネルギーのどちらかを選ぶ抽象的なゲームからスタートし、現在、卸電力市場でのオークションや、寒冷都市における電力・熱供給機器の選択をテーマとする、より具体的なゲームを開発中です。エネルギーシステム工学や情報工学はもちろん、経済学や心理学の知見も取り入れた、学際的な研究テーマです。この研究は、政策が人間の心を動かし長期的な技術選択を変えてゆくメカニズム全体を評価するものであり、エネルギー分野に限らず、さまざまな公共政策分野への応用を目指しています。



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 エネルギー政策共創のためのゲーミングワークショップの開発と実践

 持続可能なエネルギーシステムを築くための第一歩は、専門家と非専門家とが政策課題の全体像を共有することです。その際、専門家が一方的に知識を提供するのではなく、システムの利害関係者である市民が何らかの形で意思決定プロセスに関わり、政策を共に創りあげてゆくことが大切です。

 そこで本研究は、ボードゲームを用いるエネルギーシステム教育の経験を活かして、専門家と非専門家のコミュニケーションとエネルギー政策の立案のためのゲーミング・ワークショップの実現を目指しています。COVID-19の流行により対面でのゲームプレイが難しい状況が続いているものの、最新のエネルギー情勢を加味したボードゲームの開発を進めています。


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 ゲーミングを活用する持続可能な将来ビジョン共創の提案

 持続可能性とは、いわばこの世界の安定性のことです。現在、人間の活動が気候や生態系を不安定化させ、人間社会もその反作用で不安定化しています。この、世界全体が不安定化するメカニズムを理解するためには、人間の行動と世界の状態との相互作用を外から観察することと、人間が世界の状態をどのように認知し行動するかを推論することの双方が必要となります。

 そこで本研究は、この世界の「写像」であり「比喩」でもあるゲームというメディアを用いて、世界が不安定化する理由をモデル化し共有することを目指しています。現在、工学・農学・教育学・法学・哲学・デザインの専門家が協働でゲームをデザインしながら、この世界が抱える課題についての共通認識を築いている途中です。さらに、完成したゲームを公開することで「なぜ世界が不安定化しているのか」「不安定化する世界をどのように生き延びてゆくか」を議論するたたき台にしたいと考えています。


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 需要減少下におけるエネルギーシステム低炭素化のための長期シナリオ分析

日本の人口は減少に転じており、エネルギー需要も今後減少して行くと予想されます。需要が減れば利益も上げづらくなり、いまある設備の更新も難しくなります。一方、気候変動対策の観点からは、低炭素なエネルギー設備への投資を進める必要があります。すなわち日本のエネルギーシステムは、需要が減少する中で積極的な設備投資を進めなければならないという困難な状況に置かれています。

本研究は、日本の中でも人口減少が特に著しいと予想される北海道を対象とし、長期的な電力システムの維持と低炭素化をどのように進めればよいかを、動学的最適化モデルを用いたシナリオ分析を通じて明らかにします.北海道についての研究成果は、いずれ訪れる全国的なエネルギー需要の減少に対処する上でも役立つものと期待できます。



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 自治体のエネルギー政策支援のためのデータアナリシス

エネルギー源の分散化に伴い、国や県レベルだけでなく、市町村レベルでのエネルギー政策の重要性が高まっています。しかし、政策立案の基礎資料となるエネルギー需給や経済状況に関わる統計データは、国レベルではある程度充実しているものの、市町村レベルのデータはあまり公開されていません。このことは、複数の自治体の比較分析を行い、国レベルと自治体レベルの政策の連結を考える上で特に重要です。

本研究は、公的機関が公開する統計の中から市町村レベルのエネルギー政策分析に有用なデータセットを見つけ出し、これまで知られていなかった新たなデータ活用法の提案を目指すものです。第一弾として、市町村統計書と納税額のデータを組み合わせた要因分解分析を行い、北海道内の市町村における震災後の電力需要減少の要因分析を行いました。.



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 ERL Channel

研究内容を紹介するYouTubeチャンネルを開設しました.以下のリンクからご視聴いただけます.


    【日本語】

  1. Web講座「サステイナビリティ科学のためのゲーミング・シミュレーション入門」
    第1回 ゲームというメディア

    【English】

  1. "Introduction to Gaming Simulation for Sustainability Science"
    (1) Using Games as a Research Method

 ERL Games

実験や授業のための開発したゲームプログラムを,以下のリンクより公開しています.
ERL Games Webサイト