エネルギー市場競争のゲーミング分析による脱化石燃料のための市場制度設計の研究

 この研究は,人間の心理が再生可能エネルギー技術の普及に与える影響をゲーミングという手法を用いて解明するもので,システム工学と社会心理学の手法を統合する新しい試みです.

 化石燃料は有限な資源であり,これから価格が上昇してゆくと予想されます.一方,風力発電・太陽光発電等の再生可能エネルギーは,今は化石燃料より高コストですが,研究開発や実社会への導入が進めばコストが下がると見込まれます.両者の価格が逆転すれば,再生可能エネルギーによって化石燃料を置き換えることが利益を生むようになるはずです.

 この価格の逆転をできるだけ早く起こすには,再生可能エネルギーの研究開発や実社会への導入を積極的に進める必要があります.こうした投資は長期的にはエネルギー企業にとっても利益となるはずです.しかし,日本のエネルギー市場では近年自由化が進められており,目の前の価格競争に負けて顧客を失えば会社が潰れてしまいます.

 こうした状況で,会社の経営者の心はどのように揺れ動くでしょう? 未来の利益のために再生可能エネルギーに投資したいと思う一方で,価格競争に負ける不安もあるでしょう.他社が値下げを始めたら,未来への投資を削って値下げ競争に応じるべきか迷うかもしれません.すると市場全体での再生可能エネルギーの導入量は,その市場に参加する経営者の心理,および結果として選ばれた戦略の相互作用によって決まることになります.

 本研究では,こうしたエネルギー会社同士の市場競争をシミュレーションするコンピュータゲームを開発し,それを多くの人に遊んでもらって記録をとるゲーミング実験を行います.その記録を分析することで,各プレイヤーの心理や行動パターンを読み取り,それらがゲーム展開やゲーム終了時の再生可能エネルギー導入量にどのように影響するかを調べることができます.

 ゲーミング実験の目的は2つあります.

 1つめは,再生可能エネルギーが多く導入されたゲームとあまり導入されなかったゲームの記録を比較分析し,どんなタイプのプレイヤーが多い時に導入が進むかを調べることです.一途に未来への投資を続けるプレイヤー,周囲の動向を気にかけて適宜戦略を変えるプレイヤー,積極的に価格競争を仕掛けて他社をつぶそうとするプレイヤー等,様々なタイプのプレイヤーがいるでしょう.プレイヤー同士の相性も結果に影響しそうです.分析を通じて,個々の経営者の心の動きや行動が市場全体の動向に影響し,再生可能エネルギーの普及を左右するメカニズムを明らかにします.

 2つめは,市場競争のルールを変えたときに,プレイヤーの心の動きがどのように変わり,それが再生可能エネルギーの普及にどのように影響するのかを調べることです.例えば,販売価格をある水準より下げてはいけない,再生可能エネルギーの研究開発のために無利子でお金を借りられる等の追加ルールを用意し,それらの追加ルールの有無によってプレイヤーのふるまいやゲームの結果がどのように変わるのかを分析します.その結果から,現実のエネルギー市場にどのようなルールを設けることが再生可能エネルギーの普及につながるのかを明らかにします.



対戦型ゲーム「Energy Transition」の概念図 Energy Transition


 北海道での風力・太陽光発電の大量導入に向けた技術開発選択に関する研究

 この研究は、風力・太陽光発電の大量導入を進める上での障壁を明らかにし対策の提言を目指すもので、北海道エリアの電力・熱供給システムを対象とする計算機モデル解析を行っています。

 日本政府は2050年までに温室効果ガスを80%削減することを目標に定めています.風力・太陽光発電の大量導入は,温室効果ガスの大幅削減のための有力な手段として,多くの国・地域を対象とした検討が進められています.風力・太陽光発電の出力は風況や日照量に左右されるため,設備利用率はどうしても低くなります.また得られた電力で需要を満たすためには,エネルギー源の分散化,バックアップ電源,広域系統連携,エネルギー貯蔵技術等の対策を組み合わせて系統の柔軟性を高る必要があります.風力・太陽光発電設備の導入や出力変動対策に要する費用は,少なくとも現時点では電力供給コストの押し上げ要因であり,研究開発によるコスト低減が必要となります.

 ここで問題となるのは,風力・太陽光発電の大量導入を実現するシステム構成が1つではないことです.どのようなシステム構成が望ましいかは,風力・太陽光発電をエネルギーシステム全体の中でどのように位置づけるかによって変わってきます.発電した電力をすべて電力として使おうとすれば,出力変動を需要変動にできるだけ一致させ,余剰電力を最小化することが求められます.一方,余剰電力の熱利用や水素転換を考える場合,出力変動を吸収するよりも,発電によって得られるエネルギーをできるだけ多くすることが大切になります.また東日本大震災以降,再生可能エネルギーにも分散型電源としての役割が求められるようになって来ており,エネルギー効率よりも設備の地理的な配置を重視する考え方もあります.

 余剰電力最小化,発電電力量最大化,地域自給率最大化を実現するシステム構成はそれぞれ異なり,その実現を後押しする技術開発も異なるはずです.本研究は,日本でも再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが豊富な北海道を対象とし,基幹電力源,熱・水素の供給源,分散型電源といった風力・太陽光発電の位置づけ,その位置づけに則ったシステム構成,およびそのシステム構成のコスト低減に必要な技術開発の関係をモデル解析により明らかにします.この研究成果に基づき,将来の北海道において再生可能エネルギーの大量導入を実現する複数の方策を提案します.



北海道電力システムモデルの概念図 北海道電力システムモデルの概念図


システムモデル出力の一例 システムモデル出力の一例