平成21年度国際大学交流セミナー開催報告

「持続可能社会の形成に向けた都市再生に関する日韓交流セミナー」


<参加大学・日程>
日本側:筑波大学
相手側:漢陽大学校(韓国)
日程:2009年8月8日~8月19日

<参加者数>
 筑波大学:教員6名 学生18名 
 漢陽大学校:教員2名 学生12名


■ セミナーの概況

    筑波大学では、8月8日から8月19日まで、韓国・漢陽大学校と「持続可能社会の形成に向けた都市再生に関する日韓交流セミナー」を開催しました。同セミナーは、本学とみずほ国際交流奨学財団と日本学生支援機構の共催で行われ、漢陽大学校より具滋勲教授、李明勲副教授と学生12人を招いて行われました。8月11日に行われた開講式では、塩尻和子副学長、向山幸男専務理事(みずほ国際交流奨学財団)、樫尾孝理事(日本学生支援機構)、李明勲副教授(漢陽大学校都市大学院)、組織委員長の大村謙二郎教授(システム情報工学研究科社会システム・マネジメント専攻)が代表して挨拶した他、大田友一システム情報工学研究科長はじめ本セミナーに関わる本学教員らが参加しました。
    日本と韓国の都市は、成り立ちや社会的文化的背景が類似しており、少子・高齢化、大都市圏への人口集中、交通混雑時等の問題が共通の課題とされています。今回のセミナーでは、環境を意識した都市再生事例であるソウルの清渓川再生プロジェクトや東京都心部の都市再生、つくばエクスプレス沿線の田園融合型まちづくりなど、相互にとって大いに参考となると思われる事例を通して、両国の都市再生プロジェクトについて学び、参加した学生間で活発な議論を行う貴重な機会となりました。
    両大学教員による講義、フィールド視察と専門家による解説、グループワークを通してのディスカッションと発表を通して、持続可能な社会形成のための日韓両国の都市再生への取り組みについて学び、両国の共通点と相違点の相互理解を通じて今後の都市計画分野での交流の大切さを学びました。また、六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、大手町・丸の内・有楽町など東京の中心部における都市再生事例や、筑波研究学園都市、つくばエクスプレス沿線地域、茨城県桜川市真壁地区の歴史的環境を有する街づくり事例などのフィールド調査を行い、都市再生事業についてどのような協力関係を構築していくべきかについて、相互の認識を深める大変有意義なセミナーとなりました。
    筑波大学と漢陽大学校は、2004年より双方の大学間で交流協定を締結しており、研究者交流、学生交流、共同研究など、多面的に活発な交流活動を続けています。筑波大学では漢陽大学校より国費留学生として3名の学生を受け入れています。また、2008年度から日本学術振興会(JSPS)・韓国科学財団(KOSEF)二国間交流事業共同研究として「人口減少・需要縮小時代の都市ストック再生方策に関する研究」を進めております。本年2月には、交流協定締結5周年を記念して、漢陽大学校にて国際セミナーを開催致しました。また、7月には日本側の教員、学生11名が、ソウル特別市の都市再生事例を見学しました。今回は、こうした一連の活動に加えて、主として韓国側の学生に日本の都市計画の最前線を学んでもらうために、みずほ国際交流奨学財団と日本学生支援機構より支援を得て企画したものです。筑波大学側からも,システム情報工学研究科,生命環境科学研究科,理工学群社会工学類から多くの学生が参加しました。
    プログラムは通訳を交えて日本語と韓国語を使用して行われ、アジア共有の概念を無駄なく効率的に伝えることができるよう工夫されました。初めての日本訪問となった参加者も多く、韓国の学生たちは、これまで書物や映像でしか見たことのなかった日本の都市開発事例を目の前にして、強く感銘を受けていました。また、東京の大規模な再開発とは対照的な、自然環境豊かなつくば地域における田園と調和した都市環境や、サイエンスツアーを通しての研究学園都市の実体験には、新鮮な驚きを感じたようでした。



■ セミナーの経過

【8月8日(土)】来日

    成田空港に到着した一行は、鈴木勉教授(システム情報工学研究科リスク工学専攻)の出迎えを受け、高速バスでつくばセンターまで移動し、筑波大学に到着しました。漢陽大学校の具滋勲先生と李明勲先生は、早速、研究学園駅近くに新しく開業したショッピングセンターiiasを視察しました。

【8月9日(日)】オリエンテーション、つくば市研究機関見学、歓迎会

    セミナーの最初の活動は、筑波研究学園都市の見学です。研究学園都市を理解するには、まず、どのような研究機関で構成されているのかを知っておく必要があります。そこで、セミナー全体のオリエンテーションの後、つくばサイエンスツアーバスを利用して、午前は国土地理院の「地図と測量の科学館」を訪れました。地球ひろばの球体模型を楽しんだ後、最古の地球儀マルチン・ベハイムの地球儀などを見学しました。また、後日見学する東京の江戸期からの変遷を地図で見ることで、東京の都市空間の歴史的経緯を学びました。
    つくばセンターのQ’tで昼食をとって、午後は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターの一般見学ツアーに参加しました。展示室では、N-Iロケットから最新のH-IIBロケットまでの1/20サイズ模型や、実物大の人工衛星、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の模型の内部を経験しました。宇宙ステーション試験棟やロケット音響体験も見学しました。つくばを代表する研究機関の規模と内容の充実ぶりに皆感心していました。その後、筑波大学に戻って、筑波大学ギャラリーで筑波大学の歴史を概観した後、歓迎会を行いました。

 

JAXA筑波宇宙センターを見学

 

【8月10日(月)】大学キャンパス見学、学長表敬訪問、真壁町並み見学

    午前中は、筑波大学のキャンパス見学を行いました。あいにくの雨でしたが、大学会館を出発し、改装した中央図書館を訪れました。専門書や雑誌など、各自思い思いに日本の学習環境の充実ぶりに見入っていました。そして、本部棟に移動し、山田信博筑波大学学長を表敬訪問しました。学長と会談の後、具教授と李副教授より記念品が贈られました。

 

学長表敬訪問(左より具滋勲教授、山田信博学長、李明勲副教授)

 

    午後は、バスに乗ってつくば市に北隣する桜川市真壁地区を藤川昌樹教授(システム情報工学研究科社会システム・マネジメント専攻)の案内の下で訪問しました。真壁地区では歴史的な町並みを活かしたまちづくりに取り組んでいます。桜川市教育委員会の越田真太郎氏の説明を受けながら真壁城跡と陣屋跡を見学した後、同教育委員会の寺崎大貴氏の解説を受け、御陣屋前通りの町並み散策を行いました。説明には、筑波大学の日本語を専攻する韓国人留学生による通訳にお手伝い頂きました。

 

真壁地区のまちづくりを見学

 

【8月11日(火)】開講式、基調講演、学生発表Ⅰ

    筑波大学の学生も合流し、開講式と基調講演、学生による研究発表が行われました。開講式では、塩尻和子筑波大学副学長、向山幸男専務理事(みずほ国際交流奨学財団)、樫尾孝理事(日本学生支援機構)、李明勲副教授(漢陽大学校都市大学院)、組織委員長の大村謙二郎教授(筑波大学システム情報工学研究科社会システム・マネジメント専攻)が代表して挨拶した他、大田友一システム情報工学研究科長はじめ本セミナーに関わる教員らが参加しました。

 

開講式の様子

 

開講式会場前での集合写真

 

    記念撮影の後、午後にかけて、漢陽大学校の具滋勲教授、李明勲副教授、筑波大学の藤川昌樹教授、藤井さやか講師による基調講演が行われ、日韓双方の都市再生にかかる話題について、住環境整備、住宅地開発、制度、町並み保存など、様々な角度から解説されました。韓国の学生にとっては、前日の真壁地区や13日以降の東京、つくばエクスプレス沿線の見学のために必要な知識を獲得する内容となったこともあり、熱心に聴き入っていました。

    続いて、日韓双方から学生による研究発表が行われました。お互いの国の都市計画分野の学生の研究を聞く機会は滅多になく、非常によい刺激になったようでした。なお、上記プログラムは専門の通訳を交えて日本語と韓国語を使用して行われました。

基調講演(具滋勲教授)

 

基調講演(藤井さやか講師)

 

基調講演(李明勲副教授)

 

基調講演(藤川昌樹教授)

 

【8月12日(水)】学生発表Ⅱ、グループ別討議Ⅰ

    午前は、11日に引き続き、学生による研究発表が行われました。学食での昼食の後、午後は、グループに分かれてグループ課題に取り組みました。日韓の学生が混成となって4つのグループに分けられ、都市再生の話題の中からそれぞれのグループで取り上げるトピックについて話し合いを行いました。本セミナーの資料に加えて、日韓両国の専門書や両大学の共同研究報告書も用意されました。インターネットも利用して情報収集も行いました。韓国の学生は事前に準備学習をしてきており、日本の学生もその知識の豊富さに感心していました。最後に、取り上げるテーマについて、各グループが発表を行い、質疑が交わされました。
    なお、この日以降も、学生の討論や発表、見学に際して筑波大学の日本語を専攻する韓国人留学生による通訳にお手伝い頂きました。

 

研究発表を行う学生

 

【8月13日(木)】都市再生事例見学Ⅰ(東京)

    この日から2泊3日の日程で東京の都市再生事例の見学に行きました。宿泊している筑波大学大学会館より貸切バスで常磐高速道を経由して東京に向かいました。
    最初に訪れたのは、六本木ヒルズです。森ビル都市企画(株)の朴喜潤(Park, Heeyun)部長に案内をして頂きました。まずは低層部の公園やストリートファーニチャー、66プラザMamanを見学した後、会議室にて六本木地区の再開発、そして森ビルの取り組んできた東京の都市再生事業について、豊富なスライドと映像を駆使して説明を受けました。また、東京・上海・ニューヨークの巨大な模型アーバンマップを見学しました。
    午後には、森アートセンター52階展望台、スカイデッキを訪れ、高所から東京の全貌を捉えました。そして、周辺の東京ミッドタウン、国立新美術館、バスに乗って表参道ヒルズ、川崎駅周辺のラゾーナ川崎、ラチッタデッラ等の商業施設開発をも案内して頂きました。説明を韓国語でして頂いたため、韓国からの参加者は非常に多くのことを学ぶことができたようです。
    夕食は、韓国の参加者にとっては久しぶりに韓式の海鮮チゲでした。その後、宿泊先の文京区本郷のホテルに移動しました。

アーバンマップによる説明

 

東京・六本木地区の都市再開発事例を見学

 

【8月14日(金)】都市再生事例見学Ⅱ(東京)

    午前は、大手町・丸の内・有楽町地区の都市開発について、岡田忠夫氏(日本郵政(株)CRE部門不動産企画部担当部長(三菱地所(株)より出向中),筑波大学客員教授)のご案内のもとに見学を行いました。新丸ビルプレゼンルームを訪れ、DVDやパンフレット、そして千代田区の模型を用いた解説を受けました。その後、駅前地下広場をはじめ域内を散策しながら現地での説明をして頂きました。東京の顔である丸の内地区の取り組みには自ずと高い関心が寄せられました。
    午後は、豊島区東池袋地区に移動して、東池袋4・5丁目における住環境整備の取り組みを見学しました。ソシエ東池袋において、増子嘉英氏(豊島区都市整備部住環境整備課長)のご挨拶の後、濱田甚三郎氏(首都圏総合計画研究所代表取締役)、源田陽子氏(豊島区都市整備部住環境整備課担当係長)から同地区の状況と計画案の変遷の説明を受けました。その後、同住環境整備課の鷲見幸則氏、梶屋和重氏らのご助力をも得て、3グループに分かれて現地踏査による視察を行いました。韓国にも密集市街地はありますが、木造家屋からなり、細街路も非常に不規則に複雑なわが国の密集市街地は、初めての学生にとって驚きをもって捉えられたようでした。
    日も暮れた後、ライトアップされた東京タワーにあるレストランで夕食をとりました。

東京・丸の内地区の解説を受ける参加者

 

東池袋地区の住環境整備事例を見学

 

【8月15日(土)】都市再生事例見学Ⅲ(東京)

    東京の最終日は、午前中は、宿泊先近くの文京区向丘、千駄木地区の密集市街地や谷中銀座を見学しました。その後、グループに分かれて興味のある地区に見学に行きました。新橋・汐留地区、品川駅東口地区、お台場地区、東雲地区など、変化の著しい臨海部再開発地域に足が向かったようでした。
    東京からつくばへ戻る際には、最速45分で結ばれたつくばエクスプレスに体験乗車し、車窓より沿線開発にも目を向けていました。

【8月16日(日)】つくば市内見学および自由行動

    この日はつくば市内の自由見学を行いました。日程中の唯一の自由行動ということもあって、つくばセンターに行って見学がてら買い物を楽しむなど、各自思い思いに過ごしたようです。

【8月17日(月)】グループ別討議Ⅱ

    18日のグループ発表を前に、グループでの作業を行いました。各グループで設定したテーマについて、今回のセミナーで得た知識、自分のこれまで取り組んできた研究での知識を総動員して取り組んでいました。最初は、言葉の問題などがありましたが、この頃には見学などを経てグループ内のコミュニケーションは活発になっていました。

熱心にグループワークに取り組む学生

 

【8月18日(火)】グループ発表会、送別会

    午前にグループ発表が行われました。4つのグループがそれぞれ取り組んだテーマについて、主に日韓の事例比較の観点からプレゼンテーションが行われました。時間を延長しての盛りだくさんの内容に議論はつきませんでしたが、最後に各発表に対し、教員から講評が行われ、セミナーの成果を確認し合いました。グループ発表終了後、閉講式が行われ、大村謙二郎組織委員長より今回のセミナーの総括がなされ、今後の両大学の交流の発展が祈念されました。

グループ発表を行う学生

 

閉講式での記念撮影

 

【8月19日(水)】帰国

    韓国からの参加者は、各自の思いを胸に帰路につきました。出発時間まで、お土産などの買い物と最後の食事を楽しんだ後、つくばから成田空港行きの高速バスに乗り込みました。筑波大学からの関係者はバスターミナルにて見送り、別れを惜しんでいました。

■ セミナーの成果

    本セミナーは、筑波大学と漢陽大学校の指導教員相互の研究交流の促進と双方の大学院生・学部生や留学生の相互の討論を通して、専門領域や文化の相互理解の促進と国際的な視点から職業意識や進路決定に対する意識向上を期待するとともに、相手国の都市計画分野における専門的講義を体験することによって、隣国としての双方の国における都市問題の共通点・相違点を理解し、活発な研究交流の一端を経験することが期待されました。そして、都市問題についての討論と研究発表を通じて、双方の国の学生がどのような研究テーマでどのような方法によって都市計画研究を進めているかを知る貴重な機会となることが期待されました。
    韓国の学生たちにとって、研究面でも実践面でも日本の都市計画に触れるよい機会となり、日本の学生にとっては、よく質問し活動的な韓国の学生たちの熱心さは非常によい刺激になったようです。参加者はこのセミナーで過ごしたすばらしい時を思い出として心に留めておきたい、またこの経験を活かして研究や学習に邁進していきたいと言っていました。
    日本の都市計画の生きた教材として、つくばエクスプレス沿線開発や真壁地区の地方部の都市再生事例、東京の都市再生事例の見学、筑波研究学園都市の研究機関での研究内容の見学は、両国の都市計画交流の重要性を実感させるものとなりました。また、筑波大学学長表敬訪問を通じて、交流協定に基づく双方の大学間の交流活動が重要であることを理解してもらうことができ、相互の知を融合させた取り組みが両国の都市計画学の発展にとって重要であることを実感してもらうことができたようです。



■ 参加学生のコメント

漢陽大学校都市大学院都市開発経営・交通学科修士課程1年、裵 正薰さん

    「国際大学交流セミナーへの参加を通じて、最近両国で主な問題になっている都市再生に対する観点の類似点・差異点について勉強することができました。また、都市に対する考え方や都市問題にアプローチして行く方法などについて、我々と違う観点を持つ学生らとの討議を通じて、多様なことを学ぶ機会になりました。研究発表やグループワーク以外にも現地見学を通じて、専門家から詳しい説明を聞くことができ、より深く理解することができました。これによって国際交流セミナーの開催意義が最も大きくなったと思います。今後とも様々な機会でより深い交流ができることを期待します。」

 

 

筑波大学大学院システム情報工学研究科博士前期課程2年、大城 将範さん

    「今回のセミナー・グループワークを通して、日本と韓国は文化的に似ているところもある一方、まちづくりに関する取り組みや意識、都市の形成の過程には様々な相違点が見られ、互いに参考になる点が数多く存在することがわかりました。今回のセミナーをきっかけとして、今後も都市開発についての情報交換が活発に行われるようになってほしいと思います。」