研究

 

概要は 筑波大学Open Course Ware にもあります

(1)大気中放射能の長期予測

チェルノブイリ発電所の事故後、およそ10年間にわたって大気中の核種濃度を予測できる式(下記)を開発しました。
大気中のセシウムなどは鼻から吸い込むことにより内部被曝の要因になります。大気中の濃度を推定することで内部被曝のリスクを知ることができます。(Hatano & Hatano, 1997; Hatano et al., 1998)
ある場所での核種(Cs-137など)の大気中の濃度は10年程度は次のように減衰する。

C(t) ∝ t(-4/3)exp(-at)

aの値は実際のデータをフィッティングすることによって決まります。この式は図1のようにチェルノブイリのデータで検証しました。



(2)セシウムの大気中濃度のゆらぎの程度について

大気中濃度は、その場所の気象条件に影響をうけるため、日々ゆらいでいます。花粉症の花粉の飛来と同じで、セシウムも風が強くて空気が乾燥していると多く空中に飛んでいます。このように、セシウムの大気中濃度は日々変化しています。そうすれば、「今日のセシウムの値はずいぶん大きい。これは何か悪いことが起こったせいではないか?」など心配になった際、「ゆらぎの範囲内か範囲外か」がわかれば、しかるべき対応をとることができます。そのため当研究室では、平均(上の式)からのズレが±σ, ±2σ, ±3σとなる値を計算できるようにしました。(Ichige, Fukuchi, Hatano, 2015)



(3)発生時期が不明な地表汚染について、汚染発生時期の推定

ある場所で地表が汚染されていることがわかったとします。しかし、その汚染物質がいつ降ってきたのかわからない場合でも、だいたいの汚染発生日を推定できる(ことがある)ことを示しました。これは(1)の研究結果の応用例です。
やりかたは、次のとおりです。

汚染発見日をt0日とする。そこから、ある程度の期間、地表濃度と大気中濃度の両方を測ってそれらの比【大気中濃度/地表濃度】を縦軸に、計測した日付を横軸にとってグラフを作る。
そのグラフをy=x(-4/3)でフィットする。縦軸が発散する時期がおよその汚染発生日。ただし、あまりに時間が経ってしまって濃度が薄くなってくると、難しい。(Hatano and Hatano, Atmos.Environ. 2003)



(4) 事故から長期後の空間線量率の簡易予測

福島事故のあと、多くの方々がBeckの換算表(1980)を使って地表のセシウム濃度をその地点での空間線量率(μSv/hour)に換算しておられ、webにて公表なさっていました。ハロルド・ベックさんという方が開発された有名な方法です。
さて、この方法を正確に使うためには、実は地中にセシウムが何センチくらい浸透しているのか️(「汚染深さ」と呼ぶことにします)を知る必要がありますが、なかなかすぐには測ることはできません。また、それでわかるのは、現在の空間線量率の値であり、将来の予測には対応していません。
そのため、「汚染深さ」を知らなくてもある程度将来の空間線量率がわかるようなツール(一種の表)を作りました。(Ichige, Oka, Hatano)



(5) 1次元移流分散方程式の一般化Robin境界条件での解析解の導出

地表にてセシウムの出入りが生じる場合にその地下でのセシウム濃度はどのように変化していくか、解析解を導出しました。
これはいわゆるHe-Wallingの解(1999)を拡張したことに相当しています(Oka, Yamamoto, Hatano, 2015)。