研究ーマ

 

チェルノブイリ原発事故の大気長期放射線予測から福島原発事故の応用
福島県における空間線量率の長期予測
Levy flightによるチェルノブイリ地表汚染の拡大予測
大気中放射性核種濃度変動の揺らぎに関する研究
LAT-PIV法を用いた間隙流速測定とCTRVモデルのパラメータ推定
土壌中における物質移動予測モデルに関する研究
透水性媒体における汚染物質移行のモンテカルロシミュレーション
地下水汚染物質の新しい移流拡散モデルに関する研究

 

 

チェルノブイリ原発事故の大気長期放射線予測から福島原発事故の応用

2011 年3 月11 日に東日本大震災に より福島第一原発で原発事故が発生しました。現 在も放射性核種が大気中に放出されている状況であり、 国際原子力事象評価尺度(INES) は現在の事故の状況 をレベル7と判断し、周辺住民に多大な影響が出ると 発表しています。このレベルはチェルノブイリ原発事故 と同じ危険度であり、長期的に汚染物質の大気中濃度を 予測できるモデルが必要とされます。

過去に大気拡散現象に関する研究は多くな されてきましたが、それらの研究は避難や一時的な 安全性を目的としたもので、適用範囲はせいぜい数年 程度のものです。放射性核種の中にはCs,Sr など半 減期が30年程度の物質も存在する状況で、長期 的にかつ広域な空間分布を予測できる大気拡散予測モ デルは非常に重要となるのです。

              理論曲線と実測値                                                                          従来のモデルと実際のデータ

初期のCs-137の大気中濃度を1としたときのセシウム137の最大減衰と最小減衰

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福島県における空間線量率の長期予測

東日本大震災の際に起きた福島第一原子力発電所事故によってCs-134やCs137等の半減期の長い放射性核種が大量に放出されました。

この放射性核種によって空間線量率が大きく上昇しましたが、放射性崩壊や環境中へ拡散することで今後ゆっくりと下がっていくと考えられます。本研究では土壌中の下方浸透を考慮し今後の空間線量率の推移を予測しています。以下の式のE(t)が空間線量率の予測モデルであり、本研究ではwをフィッティングパラメータとして実測値とフィッティングをしています。

空間線量率の予測式E(t)

 

 

各観測地点における空間線量率の実測値及び予測曲線

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Levy flightによるチェルノブイリ地表汚染の拡大予測

1986年4月26日未明、旧ソ連・ウクライナ共和国にあるチェルノブイリ原子力発電所4号炉にて大きな爆発事故が起こりました。この原発事故は、原子炉の炉心が大気に開放状態となり、しかも事故終息まで数日要したため、原子炉内の放射性物質が多量に、そして非常に広範囲に環境へ放出された非常に重大な事故でした。 事故の翌日、原発付近のプリピャチ市内の住民に避難勧告が出され、事故から1週間経過後、プリピャチ市以外の原発周辺30km圏内の住民にも強制避難勧告が出されました。しかし、実際は原発周辺だけでなく、200km以上も離れたところでも高濃度汚染地域が広がっていました。 ここで、このような汚染の拡散からのリスクを回避するために、その拡散を予測することが重要といえます。 また、少ないデータで、つまり事故等が発生してから早急に、より正確な長期広域拡大予測のできるモデルが必要とされています。 現在、大気汚染や地表汚染に関して拡大予測のモデル式は多く存在し、比較的短期の予測は、従来の研究において成功を収めてきました。 しかし、数年から数十年単位での長期予測は、その複雑なプロセスから困難とされてきました。 その長期の予測を困難とする原因のひとつとして、「再浮遊」という現象があげられます。 再浮遊とは一度、地面や植物などに付着した放射性物質が風などにより砂や泥、枯れ葉などとともに再び大気中に舞い上がり、周囲に飛散する現象のことです。事故から長い年月が立った現在、この再浮遊という現象が非常に大きな問題となっています。 本研究では、このような再浮遊等の複雑なプロセスを考慮した地表汚染の拡大の様子をLevy Flight等の確率論的シミュレーションにより再現し、長期の予測を実現することを目標としています。


Chernobyl周辺の汚染図(IAEA, http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub886_web/Start.pdfより)

Levy flightシミュレーションを用いて粒子を飛ばし5km刻みの濃度の比較

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大気中放射性核種濃度変動の揺らぎに関する研究

原子力発電所の事故で大量に放出された放射性核種はエアロゾルとなり地表に降り積もりますが、再浮遊によって再び舞い上がり大気を汚染します.晴れて乾燥ていたり風が強い日などは、再浮遊が大きく核種の濃度は高く計測され、反対に雨など湿った日には濃度は低く計測されます。また再浮遊は風だけでなく歩行者や車両など様々な原因で引き起こされ予測が困難な現象です。

このように大気中の放射性核種濃度は日々揺らいでおり時には平均濃度の数十倍の濃度を計測することもあります。この濃度の揺らぎが上手く表せるモデルを確率微分方程式から求め、揺らぎの最大幅を確率的に表現します。これによって濃度変動による被曝のリスクについて検討が可能となります。

濃度変動の理論曲線に±σ, ±2σ, ±3σのゆらぎを付与

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LAT-PIV法を用いた間隙流速測定とCTRVモデルのパラメータ推定

球形ガラス粒子を敷き詰めたアクリルボックス内に、ガラス粒子と同じ屈折率に調整したシリコンオイルをポンプで循環させ、トレーサー粒子を混入させます。側面からシート状レーザーを照射することで、シート面内での流れを可視化します。画像処理によって媒体内流速分布を測定することも可能です。流路差や間隙の大きさにより異常拡散が生じることがわかっており、その分布データを用いて連続時間ランダムウォークモデル(CTRW)のパラメータ推定手法を提案することを目的としています。

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土壌中における物質移動予測モデルに関する研究

地下水中における汚染物質の移行の予測のための基礎式として 、従来より移流拡散方程式(ADE)が広く用いられてきました。 しかし、近年実際の汚染データと一致しないということが、徐々に確認されてきています。 そこで、現在では連続時間ランダムウォーク(CTRW)というモデルが注目されてきています。 また、距離に依存して拡散の挙動がADEに近づいていくとも言われています。 本研究では長水路実験データとシミュレーションとの比較により、CTRW予測モデルの物理的意味の解明と、CTRWとADEとの関係性を接続していくことを目標とします。

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透水性媒体における汚染物質移行のモンテカルロシミュレーション

 従来、様々な不均質媒体中での化学反応を伴う流れのカラム試験が行われ ています。地下水汚染の理論的解明にあたりこのようなラボスケールの現象を完全に理解 することは、フィールドスケールの不均質性を理解する上で重要です。しかしながら、従 来の理論モデル(移流拡散方程式)ではカラム試験の実験結果を完全に再現することができ ないことが明らかになってきました。この現象は精密な実験を行うことにより明らかにな ったもので、「異常拡散」と呼ぶことができます。

 異常拡散には二つの特徴があります。一つは濃度のピークは時間が経過してもほぼ同 じ位置にいることであり、もう一つは濃度の空間分布が長いテールを持つことです。通常、 均質媒体中の物質拡散はガウス分布を元にした分布に従うとされていますが、精密にカラム 濃度分布を測定した場合、ガウス分布から顕著にずれ、このずれは実験誤差では説明がつか ないことが明らかになりつつあります。

 そこで新たなモデルとして「ランダムウォーク」の概念を導入したモデルを考えカラ ム試験の結果とのフィッティングを行います。その際に、様々な不均質地質媒体において、 カラム試験結果との比較を行い、この新たな「ランダムウォークモデル」の妥当性を考えて いきます。そのため、まず、これまでの異常拡散モデルを発展させ、べき指数が1.5以外の 場合についての濃度分布を計算し、地質媒体の種類との対応を調べます。

 べき指数が1.5以外の場合は解析解が得られません。そのため本研究ではモンテカルロシミュレーション による数値解析により異常拡散を再現することを目標とします。

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地下水汚染物質の新しい移流拡散モデルに関する研究

 地下水中における汚染物質の移行の予測のための基礎式として、従来より移流拡 散方程式が広く用いられています。しかし、不均質な多孔質媒体中での物質輸送を表すのに 適当でない場合があることが徐々に確認されてきています。このような流れをうけ、本研究 ではBensonら(1998)の研究をもとに媒体の不均質性を考慮した新しい支配方程式を導入し ます。

 具体的には、これまでの移流拡散方程式が、濃度Cについて空間で2階、時間で1階 の微分をした方程式であるのに対し、空間で1.5階、時間で0.8階のように整数でない階数の 微分が現れる方程式です。このような支配方程式を用いて、差分法によってシミュレーション し、実験データとの比較を行いました。

 さらに、これらのシミュレーションの実証のために様々なデータとのフィッティングが 必要となります。新しい支配方程式に出てきたパラメータが物理的になにか意味を持ってい るのか、媒体によるものなのか等を多数のトレーサー、媒体を用いた実験を行います。

 

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